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沖縄自治研究会

沖縄自治研究会

第3回講座 上

第3回『沖縄の自治の新たな可能性』
慶応義塾大学大学院教授 金子 勝 氏


 どうも、金子でございます。

 自治講座ということで、本当は実は私いろいろなことしゃべっているんですけど、地方財政とかそういうのが専門の一つで、先週も足利銀行が倒れた後の栃木県宇都宮に行ってまいりました。

 きょうのお話は、地域デフレという話をやりたいと思います。全国的な話、状況がどうなっているのかという話を基本にやった上で、なぜそのことが大きな問題なのかということを踏まえた上で、三位一体改革とか市町村合併というものが、一体、全国的にはどういう政策で、どういう意味を持っているのかということを少しやりたいなというふうに思ってます。

 できれば、沖縄の話も触れたいと思うんですが、久しぶりに沖縄へまいりましたので、沖縄の事情について知らない素人があれこれ言ってもどうしようもないところがあるので、シンポジウムの後半を中心にして、質疑応答の中でやりたいなというふうに思っています。

 私は、今の状況で皆さんが、どういうことが全国的に起きているかということを、例えば教育の現場で話を始めていきたいなというふうに思うんですね。自分の生きている場所で、何が起きているかという実感が皆さんと共有できるものかどうか、そこからお話をしたいと思うんです。

 実を言いますと、私の後輩の研究者で、大沢真理という男女共同参画で政府の委員なんかをやっている、割と仲がいいと言うと向こうが怒るんですけど。後輩のくせに、人をあごで使うようなそういう奴なんですけど。「金子さん、最近たるいんじゃないの」みたいな言い方するんですけど。

 私、つい最近、大阪女子大学という女性学研究センターというところに交通費だけで駆けつけてジェンダーの話をしてきたんですね。そのときに、なぜ私を呼んだかというと、女性だけで男女共同参画の集会をやると、日本会議をはじめとして右翼の街頭宣伝車が来てつぶしに入るという状況が、全国各地で起きています。

 大沢真理は右翼から、講演のときにライフルで撃つぞという脅しをかけられているバックラッシュであります。とりあえず男がいると街宣も来ない。シンポジウムのパネラーに1人男の名前がないと駄目だと。僕の話が聞きたかったのではなくて、基本的にはボディガードの役割で行ってきたわけです。

 例えば、東京都の石原慎太郎のもとで行われている都立高校の教育改革では、周年事業という都立高校の何十周年記念という集会があります。実は、自分の娘も都立高校だったんですけど、そのときは「日の丸・君が代」の強制で、不起立の運動をやったわけですね。

 今、周年事業にねらい打ちがかけられていて、都の教育委員会、横山教育長を筆頭とする教育委員が、全部会場に張りついているんです。そして、不起立の先生がいると後ろに立つんです。真横にも立つんです。そして、処分を恐らく半年後ぐらいに出す形でやるわけです。

 見るに見かねる状況は、音楽の先生が「君が代」を弾くときに、泣きながら「君が代」を弾くという状況が、東京では今起きているわけです。

 私にとって沖縄は、実は復帰直前の復帰運動の最中に沖縄に初めて来て、何も知らない若い学生で、私なりに沖縄問題を考えて、もうどうしようもない状況だなと思いながら、本当に神戸からフェリーで2等だか3等の船に乗ってきて、1週間ほど滞在をして。自分にとっては、沖縄は原点なんですけれども、残念ながらバックラッシュの嵐は日本中で吹き荒れているわけです。ますます私は、何かをしゃべるために、学会のアルカイダ扱いになっていくという極めて残酷な風景で。イラク戦争についても、経済学者ですけれども、反対の形でテレビなんかでも堂々としゃべると、やりすぎるとしばらく干されるというパターンを繰り返してきたわけですね。

 残念ながら、この不況の中で、出口がない中で、ナショナリズムの動きが異様に強まっていく。沖縄においても前、ここ数年毎年1度ぐらい来てますけど、中部、北部の基地誘致運動というのを目の当たりにして、複雑な思いをすごく抱えているわけです。

 それは、大田県政のときには、私は沖縄へは何度か誘われたんですけど、正直言えば来る気が起きなかったんですね。稲嶺県政になって、基地誘致運動が行われるような状況の沖縄に、もう一度来ることの意味というのを、自分なりに消化していきたい。

 私は、今の苦しい状況の中で、やっぱり生活を成り立たせていくことの大事さって、そのためのオルターナティブというものをきちんと私たちが持たない限り、人はやっぱり弱いものですから、生きていくことのためにはあらゆることに黙っていくわけですね。それは、やがて行き着くところは、東京で起きていることは、やがてどこでも数年後に遅れた形で起きてくる。それはライフルで撃つぞという脅迫であったり、まるで特高警察のように教育委員が、「君が代」を伴奏する、そういう女性の音楽教師を処分の対象にするかという形で壇上に引きずり上げて、そして伴奏させるというような、もう精神の自由を拘束するような事態が、やがて一歩一歩譲ってくると、どこかでやってくるということを覚悟しなければいけない。

 本土では、ある意味で、公共事業の誘致運動というのは長く行われてきましたけれども、今、沖縄は北海道や大阪と並んで失業率が最も高い地域で、なおかつ沖縄の方は東京に行っても居づらくて、食べ物や言葉や様々なことに対して壁を感じて、沖縄の中に若い人もとどまる傾向が非常に強くて、地域のアイデンティティーが非常に強い。

 そういう地域が自治を実現できない中で、基地誘致運動をせざるを得ないこの状況を、どのように変えていくのかということについて、きちんとしたビジョンを持つことが必要であるということが、きょうの一つのモチーフになっております。

 これは特殊沖縄だけの話ではなくて、全国的に、なぜそういうことが必要なのかという理屈を皆さんにお話をして、それが皆さんにとって使えるものなのか、使えないものなのかは、皆さんに判断してもらうしかないというのが、私の立場です。

 まず最初に、足利銀行の破綻がありました。この足利銀行の破綻の経緯というものを見れば、それがいかに日本の国の金融改革がいい加減なものであるかということを象徴しているわけです。足利銀行は、既に今年の3月に既に債務超過であるということが後になってわかって、中央青山監査法人がその旨を発表いたしました。

 金融庁も、実は3月から債務超過であるという形で、9月の中間決算においていきなりつぶすという、債務超過であるという決定を下したわけです。元を正せば、実はりそな(銀行)との関係で、足利の処理の仕方が決まってきたというふうに考えるわけです。

 なぜ金融の話からしていくかというと、話を少しの順番を変えてしまいますが、実は私が恐れているのは、地域の金融機関が次々と倒れるような事態になったときに、中小企業や農業にお金が回らなくなって、深い大恐慌の波になったという1930年から1933年、スタインベックの「怒りの葡萄」に書かれたようなああいう社会が、もしかするとやってくるかもしれないという恐怖心から、私は地域の金融問題を今重視しているわけです。

 実は、足利銀行が倒れる数週間前から、地域金融が危ないということをラジオだとか、タブロイド版の新聞だとか、いろいろな所でしゃべってきたのは、最後に来るデフレは地域デフレだという、そういう懸念が、歴史の中から私の中に抜きがたい確信としてあるわけです。

 いわば、山に例えれば、地域は裾野に当たります。裾野が崩れていけば、やがて頂上も低くなっていくわけです。これは深い長い谷で、これを反転させるのは困難になってしまう。私は、そういう歴史の学び方をしてきたわけです。

 だから、今の地域金融機関のありさまは、極めて危機的な状況であり、そしてそれが、やがて地域の血液を回さなくなっていくんだということで、そこに強い関心を抱いているわけです。

 沖縄の大手地銀も公的資金が入っておりますし、まだ沖縄はそういう意味では少しずつ遅れていく、一拍ずつ遅れてくるので、この遅れてくる流れを、ある意味では読むだけのゆとりがあります。ある意味では、半年から1年のゆとりがあります。しかし、このゆとりは、半年から1年のゆとりであるということを忘れないでほしいわけです。

 さて、話を少し戻していきたいと思うんですが、今、足利銀行が倒れたのは、実はりそな銀行との対応関係で決まってきたんだということをお話ししました。りそな銀行は、実は3月末に既に債務超過だったわけです。債務超過ということは、借金が大きすぎてもう立ち直れない、つぶれた状態だったということであります。

 借金が多くて、つぶれた状態であるにもかかわらず、あのような処理の仕方をした。責任も問わずに、債権の再査定もせずに、2兆円というつかみ金がいきなり出てきて、いきなり整理をされる。

 実は、資本金をほとんど100%減資するという日本長期信用銀行がつぶれたような、100%資本金の減資ということが行われなかったわけです。なぜ、りそながつぶれたかというのは、実質はつぶれてないことになってますが、実質は本当はつぶれているわけです。それが、なぜ問題が表面化したかというのは、あさひ監査法人というりそなを担当している監査法人の公認会計士が自殺をしたからであります。自殺をしなければ、りそなの問題は表面化しなかった。しかもおかしいことに、自己資本比率というのは、国内銀行は4%でいいはずなんです。りそなは、スーパー地銀で国際業務をやってませんから、4%でいいということは大体安全が6%台なんです。ところが、2兆円入れた結果、12%近くの自己資本比率になった。12%も必要ないのになぜ12%になったのか。明らかに資産の査定がインチキだったからです。

 しかし、金融庁も、りそな銀行も、監査法人も、インチキな再建査定をしたことに責任を取りたくはないがために、12%にして2兆円を入れて、より安全な公的資金の額を入れたんだと主張したわけです。気がついて見れば、中間決算では、自己資本比率は6.5%に落ちていました。中間決算は、1.7兆円の赤字であります。しかも、新聞にもはっきり出てますが、子会社が次々とつぶされている。

 皆さん、思い出してほしいんですが、この国では、銀行がつぶれたときだけ経営者は不正会計の法律的な責任を問われるんです。りそなは、形式上つぶれませんでした。退職金をもらわないで辞めたことで責任を取ったんだというキャンペーンが、新聞やテレビでなされました。インチキです。全くのインチキであります。

 長銀も、石川銀行の事例も、実はつぶれた後に、法律上の不正会計が問われたのは、証券取引法違反。飛ばしや隠しです。子会社を使う。子会社からまた関連会社へ飛ばしをする。山一証券のときにやられた手法が、恐らくりそなにおいてはやられていたはずなんです。それが、国民の税金2兆円が入れられて、いつの間にか子会社が全部整理される。証拠隠滅です。こういうやり方を一貫してやってきた。

 実は、そのときに、長銀や日債銀のように、つぶした場合に、資本金を全部取り崩しますから、旧来のりそなの株はゼロに近いところまで落ちていきます。ちょうど長銀が株価が10円近くになってつぶれた後、ほとんどただ同然になる。

 そうすると、実はりそなは1999年3月末に7.5兆円の公的資金が投入されております。そのときに、経済戦略会議の中間報告において、竹中平蔵や中谷巌が経営者の責任を棚上げして7.5兆円を入れた。銀行側の申請主義に基づいて。このときに、りそなグループには1兆円の公的資金が入っていて、なおかつそのうち8,500億円近くの優先株を買っているわけです。

 もし債務超過でつぶせば、この1兆円の損失が確定します。国民の金1兆円が、明確に損失として確定してしまうわけです。じゃ、この公的資金を入れた責任者は一体だれか。竹中現金融大臣であります。そして、それを実行したのは、前金融大臣の柳澤伯夫金融再生委員長です。事務方の責任者は、前金融庁長官の森昭治であり、現金融庁長官の高木祥吉であります。

 つまり、資産の再査定をして、明確にりそなの損失を確定して、債務超過と認定して銀行をつぶせば、あっという間にそういう現在の金融行政のトップに当たる人たちが、すべて責任を問われるような時代。1兆円がどぶに捨てられたということが明確になるわけです。それが、このりそな処理の本当の裏側にある真実なんですね。

 しかも、実はりそなの株価がゼロ同様になると。ある生命保険会社、A生命にしておきましょう。もうわかっちゃうかな、幾つかありますから。実は、授業で間違えて、何度かやっちゃったことあるんですけど。名前言っちゃいまして、「金融危機を起こさない」って小泉首相が言ったとき、俺間違えて授業で、「りそな埼玉が熊谷で、エンロンがつぶれて、MMFが元本割れして取りつけにあったんだ。小売市場に行ったら断られちゃって、それで日銀が国債の買い取り額を増やしたんだ」と、こういう話をしたわけです。インターネットに書かれちゃいました。そんなこと言ったら、私、風評被害でお縄になっちゃうので。

 一応A生命としておきます。A生命が駄目だと、メガバンクのMが行くわけですね。金融危機だったわけです。7,600円の株価で、一遍にいっちゃった。りそなを、いわば割れ鍋に閉じ蓋で隠したわけです。ところが、5月に入って、あまりにひどいので、繰延税金資産というのが、将来収益が上がらないと回収できないんですね。この繰延税金資産というのは、貸倒引当金を払うときに、積むときに、払う税金分。相手の企業が不良債権が倒れるとこれが返ってきますので、この部分をあらかじめ資産に計上する。いずれ返ってくるんだから。

 ところが、これはそのまま返ってくるんじゃないんですね。難しいですけど還付ではないです。将来、払う税金から差し引ける。こういう特殊な性格なものなんですね。この繰延税金資産は回収不可能であるというふうに、あさひ監査法人の公認会計士は認定してしまったわけです。それで、板挟みになって自殺に追い込まれたわけですね。それが、りそな問題が浮上するきっかけになったわけです。泥縄だったわけです。実は、りそなよりも悪かったのは、足銀はもっと悪かったんです。

 それから、ちょっと名前も言えませんが、CM信託銀行とか幾つかある。もっと悪い数字、もう2年前につぶれているような銀行は幾つもあるわけです。ゾンビ銀行はまだ眠っているわけですよね。にもかかわらず、りそなからいっちゃって泥縄できてしまった。

 それとの見合いで足銀は、やらざるを得なくなった。やらざるを得なくなったら、3月でやればいいわけです、同じなんだから。だけど、3月のときやれなかった。しかも、いろいろな問題があって。

 皆さんは、ちょっとなかなか複雑な仕組みがわかりにくいと思うんですが、足利銀行をもしりそな方式でやれば、事前に債務超過であっても経営者の責任を問わないで、100%つぶして、今、足銀の株はただ同然になってますから、その足銀の株がただ同然になった後に、また新しい資本を注入するというやり方をしていく。そのときには、15兆円の公的資金の資本注入枠というのがあるんですけど、もう既に2兆円使っている。これでやっていくと、実は全国に不良債権比率が高くて、繰延税金資産に頼っているそういういびつな地方銀行、大手地銀はたくさんあるわけです。それがもし処理がどんどんいったときに、例えば公的資金の15兆円枠が10兆円を割ってしまって一桁になる。4大メガバンクの1行がいったら、もう全部飛んじゃいますから。そしたら、もう大手銀行も実は危ないと、救えないということになってしまうわけです。

 そこで私は、二つの理由から、足銀は債務超過と認定した可能性があるわけです。

 一つは、足銀は1999年3月末の7.5兆円の公的資金の投入から外されております。8月と11月に、それぞれ公的資金が1,500億円ぐらいが多分入ってます。これは、竹中氏の直接の責任ではもうないわけです。思う存分つぶせる。

 もう一つは、これを今言ったりそな方式でやっていくと、先例となって大手地銀が幾つもつぶれていった場合に、公的資金枠がだんだんなくなってしまう。とても金が足りない。預金保険機構でつぶした形でやる。

 ところが、こういうやり方をしていくと、恐らくこれから来る地銀の再編の波の公的資金は、つぶれた認定をやってしまうと預金保険料がまた上がっていくわけですから、大手地銀は抵抗し始めます。ほかの銀行も、預金保険料が上がっていかざるを得ない。それに対して、多分、抵抗が出てくるでしょう。

 今の枠組では、いずれにせよ、どこからかお金が不足してきて、今の地方銀行の再編は間に合わなくなってくるだろうと。そういう意味で、足利銀行はなかなか処理が1週間ぐらい決まらなかったのは、どの方式でやるべきかもめていたと考えられます。

 地元の代議士は、りそな方式を要求して、渡辺喜美や船田元をはじめ、そういう圧力を加えたに違いありません。しかし、りそな方式はとられませんでした。

 では、宇都宮行ってきて、今何が起きているか。まず最初に、実は地元の地銀に依存する度合いが非常に高いので、足利銀行が危ないというので、地元の企業が増資に応じています。その額、実に700億円です。この700億円に上る足銀の増資を受けた、つまり足銀の新株を買ったわけです。これはただ同然になった。この3月の決算で、足銀の株を大量に買った人たちは、あるいは企業は、それがゼロになる。その損失がいきなり表面化する。やがてその壁がやってまいります。

 鬼怒川温泉という有名な温泉郷があります。ここは、いわば借金の山で、足銀が相当にてこ入れをしてしまっている。この不況の中で、温泉場に観光客が少ないものですから、ほとんどつぶれる倒産寸前の多くの企業を抱えている。もし、それを公的資金の整理の形でやっていくと、恐らく鬼怒川というまちは消滅するに違いない。有名な温泉です。

 さらに問題は複雑で、足銀は40~50%近い県内の融資比率を持っています。実は、栃木銀行という銀行は、県内の融資残高の25%をシェアしています。足銀でどんどん不良債権の整理をやっていくと、自動的にだぶって貸している栃木銀行に波及していきます。信用金庫は、宇都宮信金はつぶれましたけど、実は同じ問題は栃木信用金庫にも波及していきます。

 そのように、大手地銀のど真ん中がスポーンと抜けると、関連してすべての地域の金融機関に波及する構造というのがあるわけです。栃木の宇都宮で起きている現実は、極めてシビアなものであります。現に今、信用収縮が始まり出しました。

 拓銀がつぶれたとき、北海道でも信用収縮があって、財務省はつぶれたときに、実は拓銀は大した被害がなかったというレポートを幾つかつくっています。それは、極めて恣意的なレポートです。そういう数に表れない信用収縮というものは全部除外されて、その拓銀がつぶれたことよる直接の余波でつぶれた企業だけを取り上げていく。財務省は、銀行はもうつぶしていいと思い始めている。金がないから。公的資金の金がない。それがもし現実であるとすると、栃木でそういうことが行われると、地域経済はほとんど奈落の底に入っていく。 

 信用収縮。例えばある缶の飲料水の中継店みたいなものが、足利銀行もほとんど一蓮托生のように増資も引き受けていて、それが卸業者から現金で取引をしろと、過去の債務を清算しろということを言われていたり、そういう信用収縮の事例は幾つも出てきています。これは、現実であります。

 これから起きる地域のデフレの中で、金融の問題は一つの大きな焦点になっていきます。実は、地銀には2グループあります。

 1グループは、大手地銀です。ちょっと名前も言えませんが、公的資金が入ったような銀行は幾つもあります。北陸のほうのでかい銀行と北海道のでかい地銀が合併をしたりとか、南東北の有名な地銀であるとか、九州地区にも北のほうに幾つかあります。片仮名が入っている銀行も含めてですね。これらの銀行は、概ねバブルやリゾートに突っ込んでだめになった地銀であります。これは、もう地域のデフレで持ちこたえられなくなってくる。 

 東京で起きていることが、だんだん地域に波及してきますから、そのデフレが今地域に及んできて、大手の地銀がどんどん危なくなりつつある。このグループが第1グループである。概ね不良債権比率が高くて、繰延税金資産でかろうじて自己資本比率を保っている。こういう銀行のグループです。

 もう一つは、繰延税金資産に依存しているのは同じなんですが、国債を大量に買っている第二地銀や信金のグループであります。これは、一触即発であります。

 なぜかというと、実は、東京と地方では景気が一拍ずつずれますから、東京で輸出で今中国がバブルですから、中国バブルでどんどん輸出して景気がよくなったと言って、金利が少しでも上がっていくような状況になると、国債の価格が落ちてきます。国債の価格が落ちたら、国債でほぼ運用しているような地銀や信金は、とんでもない打撃を被ります。この間、金利が1%超えただけで、200億円、300億円という評価増を出している地銀が幾つかあります。ムーディーズもこの間13、第二地銀の格付けを下げました。そういうグループが潜在的に眠っているわけです。 

 景気がよくなると、地銀は危ないんです。信金も危ないんです。金利が上がればひとたまりもない、そういう小さな金融機関が全国にたくさんあるということであります。

 これらの地銀は、大手地銀に貸出先を食われ、小さいところは小さいところで食えない。自己資本比率規制でどんどんしばられているし、短期資金を送り出すコール市場という、今、銀行間の貸出市場に出し手として出すにも、最近は若干立ち直りつつありますが、コール市場はほとんど死んだ状態なので、資金が出せない。勢い国債に大量に依存して国債運営をしているという、そういう地銀グループが全国にたくさんあるわけです。

 政府は、2005年4月のデッドライン、つまりペイオフの凍結解除までに、小さな地銀や信金を合併して、そのときに公的資金を入れる枠組みをつくろうとして、今、予防的注入という議論があるのは、そういうグループを念頭に置いているわけです。

 しかし私は、今の状況の中で、地域のデフレはとまる様相を示していない。確かに、帝国データバンクの倒産件数は減少してきています。しかし、戦後でトップ5に入るような相変わらず倒産件数は多いんですが、これは二つの背景があります。

 一つは、いいところと悪いところははっきりしてきた。一番気をつけて見ないといけな
いのは、信用保証協会というのが、銀行が融資するときに債務保証をするわけです。この信用保証協会が、銀行がつぶれる、相手の企業がつぶれると信用……

(テープA面終了)

……それから代弁債、かわりに払うんですね。この代弁債が、実は地域によっては依然として増え続けている。つまり、帝国データバンクの統計から漏れるような小さい企業。帝国データバンクの統計は、実は資本金1,000万円以上です。それ以下の零細企業は、ばたばたばたばたいっている。そういう地域である可能性があるわけです。

 実は栃木は、足銀がいって不思議な感じがしているんですけど、倒産件数も減っているのに信用保証協会の代弁債は増えている。末端で悪いところは、もう立ち直れないままどんどんどんどんばたばたいっているわけです。

 中国への輸出ができるような中小・中堅企業は、かなり何とかなっているわけです。くっきりあらわれてきた。

 もう一つは、金融庁の方針で、利益を上げなさいという特別業務改善命令が、大手銀行含めて銀行に出てきています。何せたくさんの繰延税金資産がありますから、利益を上げないとこれは解消できないわけです。早く利益を上げなさい。不良債権の処理を急にやめてきて。九州に本拠がある球団を持っているスーパーマーケットが、いきなりまた債権放棄、元のパターンに戻ってますよね。メインバンクが債権、借金を棒引きしてあげて、ずるずる自分たちの事業の一部を切り売り始める。つぶれる前の兆候ですけれども、そういう形のゾンビ企業と呼ばれる企業の不良債権処理の仕方が、元に戻ってきただけなんですね。ですから、倒産件数はそんなに増えないんです。今も倒産はたくさんありますけど、かつてのような急激な伸びから少し落ち着いた形。なおかつ中国への輸出が伸びている部分だけはよくなってきているので、その部分があるために、問題が眠ってしまっているわけです。

 私は、先ほど申し上げましたように、どうしても記憶から消えないのは、世界の市場がいわば依然としてまだ立ち直りを見せてない。長期停滞的な局面がずっと続いている中で、輸出に依存するといっても、どこかの国が景気がよくなって輸入を増やすケースはほとんどバブル以外にないんです。

 今、中国はもう決定的なバブルです。SARSとデフレに襲われて、中国はめちゃくちゃに財政支出をやり、中国人民銀行は猛烈にマネーサプライを増やした。そのことによって、景気を立ち直らせようとしたんですけど、やや過熱気味になっちゃっている。

 ようやく日本でも、中国がバブル気味であるという、そういう記事が幾つが出始めてきています。これをどこかでうまくクールダウンしなければいけないんですが、うまくクールダウンできるかどうか保障がないんです。なぜかとうと、中国の銀行は大量の不良債権、日本以上に大量の不良債権を抱えていて、社会主義体制であるがゆえに表面に出てこないだけなんですね。これをうまくコントロールできるかどうかは、依然として不透明である。そういう状況にある。

 アメリカは、景気は表面上はよくなっているというふうに見えるのは、これもバブルです。ミニバブルです。例えば、消費者信頼感指数は落ちても、そのことは問題にならない。雇用もほとんど増えない。設備の稼働率も、本当にわずかしか伸びない。こういう状況の中で、減税で持たせている。

 つい最近もブッシュは選挙向けに、お年寄り向けに、医療費保険制度改革の法案を出して、また数百億ドルの赤字をばらまくと。それを日本は、政府と日銀が外為資金特別会計で、大量に円売りドル買い介入をやって、アメリカの国債を買っているわけです。11月末で17兆円。恐らく前106円台に突入したときも、大規模な介入をされたと言いますから、多分18兆円近くに及んでいると考えられます。

 既に、年間でこれまでの最大の介入額は7兆6,000円ですから、18兆円という額がいかに膨大な額であるか。しかも、あと外為資金特別会計の残高も、来年1年同じことを続けられるかどうかという、もうそういう額ではない状態になってきているわけです。どこまでこういうやり方で、隠れ借金をしながら、カンフル剤を打ちながら持たすやり方がどこまで持つかというのは、私たちにはこういうやり方で何とか持ってきたものだから、着実に経済は悪くなっても、全部が崩落するというような危機に陥らなかったために、私たちはどこかで安心をしているわけです。しかし、いつやってきてもおかしくはない状況です。

 既に、アメリカの財政赤字は2003年度、多分この前の医療保険制度改革で、年間4,000ドル億円を超えるでしょう。来年2004年度は、恐らく5,000億ドルを超えるだろうと、政府自身も見積もっているわけです。GDPの5%。経常収支の赤字も5,000億ドルを超えている。貿易赤字も4,300億ドル超えている。二つ合わせてGDPの10%近い。

 そういう膨大な借金を負ったのは、1980年代を思い起こせば分かるように、レーガン政権の時期です。あのとき1980年に双子の赤字で、ドルは暴落をし、円は2倍になったわけです。今、輸出に依存して生きている日本の経済、中国のバブルとアメリカの経済の立ち直りで生きているとすると、もしこういう事態が発生すれば、もうすべて命運が絶たれるぐらいの大きな打撃を受けるわけです。

 だから、必死にもう馬鹿なブッシュのやっていることをただ支え続ける。心中に近い状態になりつつあると。
 戦争も、憲法前文を読んで自衛隊を送るという事態ですから、学力低下も甚だしくて、大体、子供に説教して教育基本法を変えたりするようなやつに限って、頭が馬鹿ときていて、自分がまずモラルがないというやつに決まっているわけです。もう説教泥棒が日本中行き交っていて、憲法前文を読むんだったら、隣に9条を並べてくれと、意味が逆だろうと。そういう状況なわけですね。

 今、こういう地域のデフレが、もしそういうショックが起きたとすれば、たちまちそういう弱い部分が、我々の地域経済というのが自立性を持っていない以上、そういう金融からであれ駄目になっていけば、たちまちそこに向かって急激な打撃を被る、そういう危険性を抱えているわけです。

 恐らく、参議院選挙まで日本の政府は、円売りドル買い介入で支え続けるでしょう。潜在的には、もうヨーロッパは逃げています。資金がどんどん徐々に流出しています。ユーロが独歩高になっているのは、ユーロに資金が戻っているからです。日本だけです。プラス中国です。中国もドル安になると困るわけです。元も一緒に下がっていくわけです。アジアの周辺諸国との関係で、また摩擦が増えてくるわけです。

 そこで、また変動相場に移行しろという圧力を、中国は受けるのを嫌がっているわけです。中国のシナリオとしては、2008年に北京五輪をやる。その前の2007年に変動相場制に移行して先進国の仲間入りをするか、あるいは資本の輸入を自由化していく。あるいは輸出入を自由化していく形で、先進国への仲間入りの演出をしようというのがシナリオですから、今の時点で、そのカードは使えないわけですね。あと4年は持たさなければいけない。そういう状況の中で、必死に支えようとしている。アジアだけが、異様な額で支えることが可能なのか。

 ブッシュの暴走を、我々はどこまでも一蓮托生のように支え続けなければいけない。もう4,000億ドル台の半ばになるようなアメリカ国債を、日本の日銀は世界で突出して持っているわけです。兵隊も行くし、金も行くし。

 横須賀生まれの首相は、遺伝子にもうアメリカと仲良くしなければいけないという遺伝子が組み込まれているかもしれませんが、私は心中だけはごめんだなというふうに、どこかで思っているわけです。長期で考えたときには、これはとんでもないことになるだろうと。

 ブッシュの問題も、今やイラクはベトナム化しつつあるというふうに言われています。ゲリラが多いからではありません。サマラというまちで、実はアメリカ軍はゲリラに襲われたと称して、もうほとんど無差別に住民を撃ち始めています。実は、イラク戦争の過程で、米軍の武器の使用原則、新しい抗戦規則が導入されました。その抗戦規則が最初に適用されたのがサマラというまちです。ここでは40名ほどが死にましたが。

 ハクアスという元のアメリカの退役大佐で、最も勲章をもらった勇敢な兵士と言われる人がいて、そのサイトは割と軍隊の中で信頼をされていて、イラク現地からのメールによれば、これは病院の関係者も含めて、全員がゲリラではなく普通の人だったというふうに伝えられてきています。幾つかニューヨークタイムズやワシントンポストの記事によれば、そこの中では、イスラエルに米軍はどんどん視察へ行って、イスラエルで学んだやり方をどんどんイラクに投入している。ベトナム戦争と同じだというのは、そういう意味です。

 イラク人の住民男性に、すべて英語で書いたいわゆるIDカードを持たせようとしたり、まちの外側を鉄条網で囲おうとしたり、あらゆるベトナム戦争とほとんど同質になっているのは、イスラエルでのゲリラ対策をほとんどイラクにおいて導入しようとしているからです。

 しかしただ1点、ベトナム戦争と違うのは、今、イラクの中はフセインが捕まった後ですが、その前後から宗派間の殺し合いが始まっています。イラクの中のスンニ派がシーア派の穏健派リーダーを殺害する事件。これはベトナムと違って、ベトナムのような一枚岩の抵抗ゲリラではなくて、むしろ内戦の様相もこれに絡んでくるに違いありません。ぐちょぐちょになります。

 アフガンとちょうど同じです。カルザイ政権はカブールの一部だけしか抑えていなくて、もうタリバンは戻ってきていますし、ほとんど内戦状態です。やがてイラクに自由と民主主義をもたらすと言って証拠もなしに攻めたアメリカのもたらしたものは、イラクにおける無秩序と混乱であります。そこでは、米軍に対するゲリラだけではなく、イラク人同士が殺し合うというような悲惨な構図が生まれてくるに違いありません。日本の新聞では報道されてないことであります。

 日本の新聞は最低であります。アメリカのメディアの情報しか使っていないからであります。イギリスやカナダのメディアを見れば、そういうことは次々と暴露されています。私たちは、今そういう意味では、正確な情報をつかまなければいけない。

 来年のリスクは、1番目は双子の赤字がもたらすドル安というシナリオ。恐らく参議院選挙と11月の大統領選挙に向けて、何とか支えようとするでしょう。しかし、うまくいくかどうかは分かりません。予断を許しません。

 二つ目は、中国のバブルのコントロールがうまくいくかどうか。

 3番目は、テロです。恐らくアルカイダをはじめとして、アルカイダという組織は、実はもう弱体化しています。アルカイダは訓練施設でしたので、アフガンで訓練をしたそういうゲリラ兵士は8万人に及んでいます。その訓練所は、ミンダナオ島から含めて、同じ訓練を全世界中でやっていますので、別々に動くそういうゲリラネットワークみたいなものが動き出す可能性が十分にあります。

 アメリカにおいても、日本においても、テロの警戒情報が常に出されていて、一部では血のクリスマスがやってくるだろうという噂も立っているぐらいであります。ちょうど断食月のラマダンに、イラクにおいて血のラマダン、ブラッディラマダンになったように、ブラッディクリスマスが来るかもしれません。私たちは、絶えずそういう恐怖におびえながら、1年、2年と、これから生活を過ごさなければいけないというのが現実であります。

 なぜならば、沖縄の地には米軍がいるからです。そして東京は、首都だからです。私たちは、既にそういう戦争に足を突っ込み始めています。そういう基地を誘致するということが、短期的には公共事業をもらえるかもしれませんが、今や世界は分裂と不安定の時代に入り、70年前と同じように世界的なデフレの時代と戦争の時代に突入してきています。私たちは、そういう時代に生きているんだということをはっきり見据えなければいけない。

 今、力がないかもしれませんが、基地がなくても生活できる、そういう経済のプランというものをどうやってつくっていくのかを真剣に考えることこそが、まず地に足のついた私たち自身が生きていくために、必須の考えなければいけないプログラムであるということを、私たちは忘れてはいけないだろうと。

 私は、経済をやっていますからリアリストです。どんなにきれいごとを言っても、人間食っていけなくなれば何でもします。イラク人がなぜゲリラの抵抗を支持するか。水もない、職もない、電気もない。こういう状態の中で、なぜ彼らは支持するでしょうか。我々の国の自衛隊を、いわば解放軍と受けとめるはずもありません。私たちは、いつの間にか想像力を失っています。

 イラク・ボディーカウントという有名なNPOが開いているサイトがあります。そこの数字を開いていただくといいと思います。既に、兵と市民を合わせて2万人以上のイラク人が死んでおります。イラクは、発展途上国でありますから、人口の半数は15歳以下であります。恐らくその3倍の重症を負った人たちがいる。その3倍のほとんどが子供であります。クラスター爆弾や劣化ウラン弾、様々な大量破壊兵器がイラクにおいて使われた結果です。

 イラクにおいては病院に、麻酔薬もなければ、まっとうな水もなければ、手術装置もない。そういう中で、幾つかのアメリカの新聞でさえ伝えているのは、そのまま先進国であったらば手術をすれば済んだものが、手足を切断しなければ生命が危ないという形で、麻酔薬なしで体を押さえて手足を切断しているというのが、今イラクの病院で起きている現実であります。医者たちは、すすり泣いて仕事をしているわけです。

 私たちは、今そういう中で、私たちが長期で考えなければいけない。そういう平和の選択ということは、今イラク人にとって、例えば沖縄の那覇の真ん中に証拠もなしに攻めてきて、爆弾を落とされて2万人死んでその3倍、6万人に当たる人たちが重症を負って、その後の生活ができないと考えたならば、だれが米軍にしろ、スペインの軍隊にしろ、イタリアの軍隊にしろ、日本の自衛隊にしろ、解放軍として受けとめるはずがないじゃありませんか。

 私たちは、そういう中で、なおかつ経済をと言いたいんです。私たちは、精神が貧しくなっている。貧すれば鈍するだ。そのためには、何とか地域デフレを阻止するような枠組みをつくっていかなければいけない。そういう危機に立たされているんだという、時代認識を持っていただきたいというのが、私のまず第一の主張なんです。

 なぜ、大恐慌を連想したか。これはある意味で、起るとも起きないとも言えません。いいですか。無理矢理危機をあおるつもりはありません。歴史上そういうことが起きたというのは、事実であります。 

 あのニューディール政策が、なぜ有効性がそがれたか。州や地方財政が真っ赤っ赤で、税収が不足して引き締め政策をせざるを得なかった。1930年、ばたばたと小さい銀行がつぶれていって、中小企業や農業にお金が回らなくなって、地域のデフレが急激に進行した。その中で、1930年~1933年まで、あの「怒りの葡萄」は、地方の農園が舞台であります。地域そのものがいかに深刻な不況であったかというのがスタインベックの小説のバックにあるわけです。

 私たちは、来ないかもしれないが、なおかつ可能性として地域デフレの怖さというものを、歴史の教訓として思い起こさなければいけない。そういう中で、私たちは、目先の利益のために、中長期で抱えるリスクに目をつぶってしまう。そういうことを、次第に続け始めてきています。

 目の前で食っていけなければ、話は始まらないんです。例えば、自治体の職員ですと、いいだろう公務員は、おれたちは食っていけない、それでは説得力がない。

 私たちは、本当に困難な局面に立たされていて、今の金融問題でも大手地銀から始まるそういう金融の危機が、十分に目前に起こり得る可能性が非常に高まってきている。これも、起きるか起きないか分かりませんよ。どういう規模で、どういうペースで起きるか分かりません。足銀と同じようなケースは幾つか起きるでしょうが、ゆっくりゆっくり起きるかもしれません。早急にがたがたいってしまうかもしれません。これは、経済状況に依存しますからわかりません。

 じゃ、大手銀行はよくなったのかといったら、りそなのように、子会社を整理し、累積損失を整理し、引当金を大きく積めば、その原理原則を4大メガバンクに適用すれば、ほとんどのメガバンクは自己資本比率を割ってしまうような、本当にまずい状況は依然として変わっていないんです。

 じゃ、何が変わったのか。つぶれそうになっても、たとえ債務超過に陥っても、大手銀行は影響が大きいから、幾らでもお金を入れて救うということを決めたんです。不良債権処理が終わったんじゃないんです。銀行株がただになることはないんだというモラルハザードを公然とやることが、りそなによって許されたということです。それが、今度は地方銀行にも一拍遅れる形でデフレが来てますので、やがてその波がやってこようとしている。

 大きな話の二つ目は、実は日本中で起きているシャッター商店街の話であります。私は、「経済大転換」という本の最後に、地域デフレの話でしめるようにしました。それは、先ほどから言った問題意識です。

 宇都宮は、だいぶ5件に1件ぐらいになりましたけど、一時期は2件に1件から、3件に1件ぐらいシャッター商店街になっていました。岐阜のまち、前橋、水戸、木更津、私は関東近辺を行くんですけど、そこへ行くともう本当にひどい商店街。名古屋はまだいいんですが、岐阜へ行くとたちまちひどいシャッター商店街。これが、今、全国で進んでいます。空きビルもすごいです。新潟とか神戸とかは、もう15%を超えるような空室率になっています。

 私は、今起きていることは、みんな短期のことに目を奪われていて、不況だから商店がつぶれるのは当たり前だろうという、こういう考え方になる。いいですか、目先の利益と中長期で起きることの区別がつかなくなってきている。それは、沖縄の基地誘致運動もそうですが、どういう時代に基地誘致運動をしているのか。そういう自覚がない。

 僕は好きな言葉を「経済大転換」の中にも書いてあるんですけど、「愚者は経験に学び賢者は歴史に学ぶ」という言葉が好きなんですね。昨日と今日を比べて、いつも昨日を教を連続させながら生きている。そうすると、私たちは経験の範囲の中で問題に対処する。

 例えば、この方と私は友達だとします。嫌そうな顔しないでくださいよ。(笑)例えば、今日、ちょっと顔色が悪い。私はどういうふうに考えるかと。彼は、何か心配事があるのかな、寝ていないのかな、病気かな。普段と違うところを比較しながら、毎日を生活するわけです。毎日、朝、歯を磨き、顔を洗いというのと同じです。同じことをみんな繰り返しているんだけれども、違う部分を過去との経験で比べているわけです。
 私たちが、10年以上も時を失ったのは、起きていることが全く新しいことであるにもかかわらず、経験の範囲で処理をしようとしたからです。

 過去は、どんな不況も3年で不況は終わると考えていた。今はいろいろな形で隠れ借金をやって、当面、持たせればいいと考えている。しかし、実は起きていることは3年で不況なんか立ち直れなかった。失敗して隠したものが、どんどん銀行の不良債権、特殊法人の不良債権、特別会計の隠れ借金。膨大な何百兆円にもなる額の隠れ借金がいろいろなところに隠れている。何とか持たそうとやっている。 

 ところが、いつまでたっても、成長が来れば何とかなる。過去と比べて今
を考える。成長があった過去、だから成長があれば何とかなるんだと。こういう形で問題を処理しようとしたら、過去と全く違うパターンに入っている。そうすると、この隠れ借金をどんどんどんどん責任を回避するために、隠して、隠して、ふくらませていって収拾がつかなくなる。これが、日本中で行われていることです。

 それは、会社もそうだし、地方自治体もそうです。地方道路公社、地方の住宅供給公社、土地開発公社、むちゃくちゃな借金が、何兆円あるいは十兆円を超えるような額で、全国で眠っているわけです。自治体の職員がいくら給料をカットしようが、全然関係ないような膨大な借金です。そういう借金が、いろいろなところで眠ってきているわけです。

 昨日と今日を比べながら、新しい時代に直面すると、経験の範囲でやればやるほど時代は泥沼にはまっていく。こういうことは、私は、愚者は経験に学ぶというふうに言うわけです。賢者は歴史に学ぶ。

 今のデフレは、戦後この中にある一定の年齢の方が、こんな何年もデフレで価格が下がるようなことって経験したことはございますか。ないでしょう。経験の範囲で起きてないんですよ、4年も5年も連続して物価が下がり続けるなんてことは。

 過去に、物価上昇率がマイナスになるような事態は、さかのぼって見れば、70年前の大恐慌の時期以来のことなんです。もちろん、私は大恐慌がやってくるなどということを言うつもりはありません。大恐慌のときよりはいろいろな制度が整ってますから。私が言っているのは、似たような時代だけれども違う。スローパニック、ゆっくりしたパニックなんだという、そういう表現をしている。過去と比べながら、同じことと違うことを考える。しかし、それは歴史なんです。賢者は歴史に学ぶ。

 例えば、お殿様が、過去いろいろな戦争の歴史を学びますよね。小さいときから帝王学で戦史を学ぶ。なぜか。オン・ザ・ジョブ・トレーニングで、戦争を一個一個やって体で覚えればいいんだでは済まないわけ、生き死にをかけるから。古今東西の戦争の歴史を全部学んで、カードを蓄えて、そのパターンの中から戦争を考えるわけです。

 私たちは、今、歴史的に起きていることを、時間の長いタームの中で何が起きているのかを正確につかんでいないんです。だからこそ不安なんです。病気の原因がわからない病気ほど不安なものはないんです。ガンならガンで、はっきりしたほうがすっきりしているんです。手術をするか、抗ガン剤を打つか。どの程度生きられるのかはっきりするわけです。原因がわからないというのが怖いわけです。それは、我々が賢者でない。歴史から学んでいないからなんですね。

 歴史で学ぶとは何か。私はそう考えたときに、今、日本全国で起きているシャッター商店街や空きビルの連続は、実はまちや村の崩壊だと考えているわけです。まちや村の崩壊。私は、これを日本型インナーシティ問題と呼んでいます。

 インナーシティとは何か。まちの空洞化問題です。これは、1970年代の二つのオイルショックの後に、欧米諸国が経験したインナーシティ問題というのは、移民暴動が各地で起きるような極めてシビアな社会問題となったわけです。

 私もロンドンで調査をしたことがあります。スラム街に住んだこともあります。1982年に、ランベス暴動というのがありました。ロンドン南部のランベスというまちで、一斉にアフロ・カリビアンと称する黒人たちが暴動をし、韓国人やインド人のショップを襲い、白人を襲いという暴動でありました。一番近い記憶は、1992年のロサンゼルス暴動であります。あちこちで小さな暴動はたくさん起きました。

 オイルショックの後、地価が上がる。企業の経営が苦しくなって、土地の真ん中が空洞化する。失業した移民たちがあふれて、都心の真ん中に集中し始める。私は、幾つもイギリスが建てた教会がモスクにかわっていたり、ヒンズー教寺院にかわっていった姿を目の当たりに幾つかしました。そういう中で、都市問題が大きな問題として浮上して、まちの真ん中が空洞化していく。

 私が1980年代行ったときはビートルズのリバプールは、マンチェスターも、ブラットフォードも駅前が完全に更地でした。全部、空洞化してしまったわけです。

 今起きていることはこれと同じ問題です。私たちは、長い不況を一度も経験したことがない。10年以上に渡る不況を経験をしたことがない。だから、経験に学ぶことしか学んでいる限り、起きていることが理解できないんです。それは、イラク戦争とテロの問題や、基地のリスクの問題も、かつてとはもう違うんです。明らかにアメリカのユニラテラリズムは暴走を始めています。


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